黒澤監督映画を鑑賞したら「アン・シャーリー」との違い「リロ&スティッチ」との共通点が見えてくる
2025.06.01アニメーション学科
デザインの専門学校 大阪デザイナー・アカデミー(旧:大阪デザイナー専門学校)
雨の日郵便局に行ったら窓口で「雨の中お出でいただきありがとうございます」と言われてパインあめをもらったアニメーション学科長の森です。
黒澤明監督『赤ひげ』は3時間を超える映画です。
授業時間をオーバーしてしまう上映時間の映画なので、授業で観賞する教材としては似合わない映画。ですが2年生のジョブワークと演出技術論の就活で見るべきおススメ映画第四弾として鑑賞しました。
世界中で映画ファンなら誰もが知っている日本映画の監督と言ったら黒澤明監督。黒澤監督の1965年の映画ですが、上映時間が長く、白黒映画、古い映画でセリフが聞き取りにくいということもあって、見る前から先入観を持ってしまったお疲れ2年生の中には、映写のために照明を消した途端に机にうつ伏してしまうなんて人もいましたが、イラン国籍である彼は、最初から終いまで画面から一度も目を逸らすこともせず見入っていました。
どうしてそんなに一生懸命に画面に注目していたの?
って鑑賞後に尋ねてみたら、映画前半の佐八のエピソードと六助の孫三人のおにぎりのシーンに心奪われたからと答えてくれました。
黒澤映画『赤ひげ』は
今の若い人たちには苦手な映画のスタイルと言えます。
理由は、ひとつひとつのショットでの演者の芝居は間をたっぷりと使ったものすごくゆったりとした芝居で、カットを割ってアップで説明する演出ではなく役者の芝居を大切にしたスタイルの映画。TikTokや短い時間で切り取られたYouTube動画に馴染んでしまった人たちには、受け入れ難い映画だと言えます。なのにあんなに一生懸命に見てくれたなんて。
先日地上波で放送されていたディズニーアニメーションの『リロ・アンド・スティッチ』と
今の日本のテレビアニメを見比べると、映画『赤ひげ』は日本のアニメの見せ方とはかなり違うモノでした。
今のアニメのテンポに馴染んでしまった人たちには『リロ&スティッチ』『赤ひげ』は見るに辛い映画に思います。
さらに、黒澤明監督の構図って、映画館の大きなスクリーン画面で見せる事を前提に撮影されているからでしょう、シネマスコープのフレームに複数の芝居を詰めて見せる画面が多数使われていて、アニメやマンガ的ではなく絵画的な画面です。画面の隅々まで神経を行き届かせて映画を見るという行為も今風とは言い難い。
でも、そんな黒澤映画だから、何度も繰り返し鑑賞することができる深い映画ばかりなのでしょう。そして、そのような黒澤演出の画面に堪える芝居をする役者たちも凄いことだと言えますね。
『リロ&スティッチ』のキャラクターたちも良く動いて芝居をします。アニメーションの場合はアニメーターが動画を描いてキャラクターを動かしているわけですから、アニメーターたち凄い!というわけです。
黒澤映画は、凄くて重たいばかりではなく、ユーモアも用意されている事も特徴です。
赤ひげが岡場所の用心棒たちをやっつけてしまう大立ち回りの後に放つ一言に、教室の学生たちがみんな揃って大笑いした瞬間がありました。
なあんだ、皆、教室の暗いのをいいことに、見ていなかったのかと思ったけど、しっかり観ていたんだ。
3時間を超える長い映画でしたので二週に分けて鑑賞しましたが、二週目も遅刻欠席もなくクラスの皆が満足して見てくれたことがとても嬉しいです。
つまり、脚本とキャラクターたちと画面作りが素晴らしければ
その映画が白黒映画であっても上映時間の長い映画であっても楽しんで見てもらえるということなのですね。
現在放送中のアニメ『アン・シャーリー』を見て、驚いてしまったことがあります、1979年にテレビ放映された『赤毛のアン』をリアルタイムで見ていた者としては。まだ10話にも届いていない話数で、マシュウ・カスバートが亡くなってしまうんです。
今のテレビアニメはワンクール放映の縛りがあるので仕方がないのでしょうが、
『赤毛のアン』では全50話のうんと最後の話数で亡くなる物語の構成
でした。久しぶりに『アン・シャーリー』は途中をうんと省略したのでしょうか? あらすじをなぞるように展開させたからなのでしょうか?
50話構成の『赤毛のアン』を見て感動した自分としては、四分の一に短くなった赤毛のアンってどないなんだろうと心配です。ワンクール構成の今のスタイルに残念さを感じつつ、そのようなハイテンポな展開でないと、今の人たちには刺さらないのかなと思いつつ、『赤ひげ』を一生懸命見てくれていた大デ・アニメーションの2年生たちの素晴らしさにありがとうにありがとうと思ったわたしでした。
佐八と六助の三人の孫のエピソードに感動してくれた彼には
黒澤監督のサスペンス映画『天国と地獄』と活劇映画の醍醐味を味わえる『七人の侍』も見てごらんとススメました。もちろん、キャラクターひとりひとりの設定もキャラクターの芝居も描写も素晴らしいよ。ストーリーも面白い!
就職面接と業界に就職して新人時代を過ごす主人公女の子が
上司との関係や職場の先輩や学生時代の仲間との人間関係の中で学んでいくドラマ『プラダを着た悪魔』から始まって、第二弾は夢に向かって突き進んで行くのだが、オーディションにチャレンジすることに躊躇する主人公女の子が周りの人々との関係の中で一歩を踏み出すミュージックいっぱいの『フラッシュダンス』、そして、11歳の男の子が好きなことに純粋に向かって行き家族も理解して応援してくれる第三弾『リトルダンサー』、そして、今回の第四弾は。エリートのレールを進んできた若者が教科書と教室では手に入れることのなかった現実を目の当たりにしてうぬぼれとプライドが打ちのめされ挫折と反抗から次のステージに進み成長する物語を味わってもらいました。